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​シロアリと腸内共生微生物の相互作用

微生物との共生関係は動植物を問わず広くみられます。その中でもシロアリと腸内微生物群集は絶対共生関係と呼ばれる、互いに互いの生存を完全に依存している関係で、その関係は1.5億年以上前から維持されてきたと言われています。原生生物や細菌などの多種から成る群集がシロアリ腸内には形成されていますが、シロアリの腸という限られた環境の中で、それらの群集はどのように維持されてきたのでしょうか。さらに、それらの群集はどのような機能を持つのでしょうか。

私はこの両者の関係において、腸内微生物群集が宿主の生活史において果たす機能と動態に着目して研究を行っています。

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ヤマトシロアリの腸内微生物群集
1. シロアリ腸内微生物群集のカースト間差、性差

シロアリの社会においては採餌や巣の防衛を行う個体(ワーカー・兵アリ)と繁殖に専念する個体(王・女王)で分業が行われています。ヤマトシロアリにおいてそれぞれの個体の持つ腸内原生生物群集を調べると、王と女王は原生生物を全く持っていないことが明らかになりました。さらにコロニーによっては、ワーカーの性間でも原生生物群集に差があることを見出しました。​このことは繁殖を行わないワーカーにおいても性が重要な役割を果たすことを示唆しています。

Inagaki and Matsuura 2016 Ecol Res.

Inagaki et al 2022 Ins Soc.

ヤマトシロアリの創設王・創設女王・二次女王・ワーカー
2. 創設期における幼虫への給餌への貢献

巣から飛び立ったシロアリの羽アリは、ワーカーの助けなしに巣を構築し、子育てを行うなどのタスクをこなす必要があります。繁殖を行う上で必要な栄養はどのように調達しているのでしょうか。​ヤマトシロアリの羽アリが新たな巣を創設する際の栄養量及び原生生物量の挙動を追ったところ、幼虫が孵化する際に原生生物量の急激な増加と減少(”腸内微生物パルス”と呼称)が見られました。さらにこのパルスは宿主の栄養量に貢献していることも分かりました。

​  この研究により、腸内微生物が宿主の追加栄養に寄与していることが明らかになりました。もしかするとシロアリは自らに都合がよいように腸内微生物量を調整できるのかもしれません。

ヤマトシロアリの初期コロニー

Inagaki et al. 2020 Behav Ecol Sociobiol.

2. 腸内微生物による巣内衛生の維持

シロアリの腸内微生物は、木材消化や窒素固定を通じて宿主に栄養を供給することが知られています。我々はこのような栄養供給以外にも、腸内微生物は巣内の衛生環境を保つ働きを持つことを明らかにしました。

  シロアリは自らのフンを用いて巣を構築します。腸内微生物は宿主の取り込んだ環境中の日和見共生菌を抑えることで排出されるフンを清潔に保ち、巣内における日和見菌の増殖を抑制していました。​

Inagaki and Matsuura 2018 Sci Nat.

腸内微生物除去
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腸内微生物保持
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